[書籍]テンポアップするホラーたち

最近久々に勧善懲悪的に気持ちいい推理小説読みました。
個人的にはホラーでした。

長い腕 (角川文庫) 長い腕 (角川文庫)
価格:¥ 620(税込)
発売日:2004-05

初版発行は2004年なんだけど、なぜか最近のミステリの棚に新刊として載っていたのでジャケ買い。
悪癖だと反省しているがジャケ買いを辞められない。
CDの買い方ではよく聞くジャケ買いも、本でやってしまうというと妙な顔をされる。
つまりはみんな小説のストーリーの過程を楽しむ人が多いんですね。
悪癖の原因として、「オチ知りたがり魔」という性癖が挙げられると自分では思う。
ドラマにしろ、書籍にしろ、ラストが分からないと客観的に見て作品を純粋に楽しめない。
推理小説は殆ど最後のほうから読み始める。
トリックも分からない、経緯は読み取れない、それでもオチを頭に入れて最初から読み始める方が何倍も楽しめる。
それが何故「ジャケ買い」になるのかというと、
煽りや裏表紙の簡易あらすじを読んだだけで内容の面白さを把握した気になり買ってしまうから。
あ、CD的な意味でのジャケ買いもかなりあるのは事実だ。
松山ケンイチを表紙キャラクターにしていた時期の角川文庫は何冊かやりました。
閑話休題。
とにかくその本のことを全く知らない状況で、
オチだけ把握して読み進めまくるので当然「しまった買うんじゃなかった」「これは面白くない」という書籍にも出会う。
そういう意味ではこの「長い腕」は大当たりの物件なのでありました。
作者の川崎草志さんはセガ・エンタープライゼズ、三菱電機を経てゲーム会社勤務という
異色の(小説家では珍しいと思う)経歴の持ち主なので、
多少バーチャルな舞台設定、犯人の異常人格の組み上げ方が安易なのはそのせいか?と思う部分はあるけども
概ね気にせずに読めた。
自分は業務系開発者なのでまずゲーム業界とは縁がない。
業界としては地続きであってもその実態を全く理解していない。
それでもゲーム開発のフェーズの説明は非常に面白く読めた。
デザイナーがどのような部分でどう貢献しているかということも(この本の通りなら)把握した。
ゲームのために色々なデザイナーが用意されていることは知っていても、
そのデザイナーたちがどのようにゲーム開発に関わるかということは全く知らなかったので、
ゲーム業界のデスマーチなるものをある程度理解するための非常に希少で面白い文献になると思う。
とにかくプログラマ以上にプログラムに精通してなければ勤まりそうになさそうだ。
事件に入る契機となる、主人公の汐路の故郷への帰還は少し現実味がない気がした。
ただ汐路というキャラクターが立ってくるところでもあると思うので、
現実にはこれほど頭の切れるやりとりはないんだろうなと思いつつかなり爽快。
中学生とはいえ罠にかかった一人の人間をほいほいとやりこめてコーヒーを淹れさせる才能はちょっと欲しい。
この作品の中で「面白さ」とは異質なのだけど一番心をえぐったのはやはり
犯人たちが発狂して汐路を追い詰める描写。
作者の緩急のある筆致が大行進してちょっとしたホラーに相当する怖さ。
ワンパターン、ありがち、先が読めると言われるような構成かもしれないが、
それでも演出される恐怖と続きが読みたい衝動はかなり気持ちよかった。
生きてる人間が静かに突然狂ってしまう瞬間はやはり怖いもののうち上位にランクインすると思う。
悪意があって感情を持って頭で行動を組み立てられる段階を超えて、
生きているのかいないのか分からないものの存在を支えにして狂ったまま生きて危害を及ぼすものたち。
最近の推理小説の傾向として、
サスペンス要素、ホラー要素が盛り込まれてきて事件そのものが解決しないというシフトがあると思う。
それを一番強く意識したのは綾辻行人「殺人鬼」のシリーズを読んだときで、
そもそもそれ自体がはるか昔の思い出なのだけど
読者に推理を強いておきながら恐怖だけ与えて去っていく小説の理不尽さをかみ締めたことを忘れていないのだと思う。
その点見事にヒーローが謎を解き明かし、汐路は平穏の中に生きていくことを考えるオチはそれなりにすっきりした。
第2回横溝正史ミステリ大賞受賞作という冠の付いた作品ということらしいが、
横溝正史の時代から考えると作品は凝縮し、加速がついてページ数を減らすことが困難になり、
何を書くか書かないかで作者が苦悩していることがわかることもある。
ドラマやマンガで進行の速さを指摘されることがままあるが、
推理小説の中に訪れるサスペンスやホラーもどんどん加速しているなあと思った一品でした。
優れた推理小説とは言いがたい構成かもしれないが、臨場感のある理不尽なスリルを味わいたい人にはお勧めかもしれない。

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