[書籍] 『告白』 アンタッチャブルをどこまで受け継ぐか

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1) 告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)
価格:¥ 650(税込)
発売日:2010-04-08

CMで爆発する松たかこを見、妹に「これ読んでない?」と聞かれ、
初めてラブストーリーではないことに気付いた。
恐らく同名か似たような書籍の紹介文を読んでラブロマンス小説だと思い敬遠していた。
映画版のCMで興味を引かれたこともあり、購入した。
本書は第一章が全ての事件の発端となった殺人事件の報復についての独白を「告白」とし、
その結果引き起こされた事件を独白として第二章~第五章で取り扱い、
第六章で破綻を迎える構成になっている。
当初著者である湊かなえは第一章のみの投稿で小説推理新人賞を獲得したと聞いたが、
確かに第一章「聖職者」のみの抜粋でも充分に機能するミステリだと思う。
ただ付属とされたはずの第六章までを続けて読むと、第一章の意味が大分変わってきてしまうところも魅力になる。
第一章のみでは恐らく映画化はされなかっただろうし、
第六章までが書き下ろされたのは恐らく必然であったことと思う。
ただ湊かなえ本人が本格ミステリの流れを汲むべきと思われるのであれば第一章で止めておくべきだった、
とわたし個人は思う。
また異色ミステリを求める読者だからこそ、第六章にひきつけられる魅力があるとも思う。
【内容】
中学教師の森口は化学を専攻とするシングルマザー。
かつて結婚しようとした相手との間に愛美という子を設けることとなったが、
夫となる予定だった桜宮が過去の言動のつけとしてタイミング悪くHIVを発症する。
そのような事情から結婚を諦め未婚の母として安定した公務員の道を選んだが、
ある日愛美は中学校のプールで溺死体として発見される。
森口は愛美が殺された理由を自ら暴き、犯人である教え子への復讐を行い退職する。
復讐されたと気付いた犯人たちとそのクラスメイトは事件の大きさを受け止めきれない。
森口が実行した報復に怯える犯人の一人である下村は母親の溺愛を逃れられず、
もう一人の犯人である渡辺は優秀だった母親に認められたいというコンプレックスでいっぱいになる。
渡辺は周囲を欺きクラスメイトを巻き込む事件を計画するが、
計画を察知した森口に本当の復讐を実行されてしまう。
あらすじを語ってしまうとそれほどたいした事件ではなくなってしまうように思えるのは、
文体が全て独白として統一されているせいかと思う。
独白という主体的な観点をいくつか組み合わせて客観を発生させているので、
独白を読んでいる最中には俯瞰しにくい。
ただその分非常に視野の狭い登場人物たちの言い訳に感情移入できる。
一番最初に読んで思ったことは、「作者はとても書きなれているな」という点だった。
書いてみると分かるのだけど、
わたし個人は会話文(独白)で小説を書くことはとても難しいと思う。
少なくとも人によって適性が分かれる執筆スタイルだと思っている。
作者本人が得意としている文体なのかどうかという点はいまだに判断がつかないが、
独白で他人の介入を許さない文体で統一したことがこの作品の成功に繋がったと感じる。
その分、未読の人間へはどのようなことを伝えるべきかという点に迷う。
読み手も情報の取捨選択を迫られるという点では非常に高度なミステリとして成立している。
ただ、先にも書いたように
第二章以降が発生したことで公正なつくりとは言いがたい部分も発生しているように思う。
特に第六章で思ったことだけど、
独白のリレーが渡らなければ読み手が知りえない事実が出てくる。
「解決編」までに推理の材料が全て出ているというのが本格ミステリのお約束だと思うので
やはりこれは本格ミステリの構成にはなりえなかったのだと思う。
本格ミステリではないのだろうが、本作の人気でミステリの幅が広いことを改めて思い起こされた。
個人的には読み手を置き去りにして自己完結するミステリというのも悪くないと思う。
本作の書評で「醜悪」「ホラー」と称される原因になるのは
やはり登場人物の非常識さ、思いやりのなさ、欠落した想像力といったキャラクターのつくりに原因があると思う。
完全に作者の意図的な描写かとは思うが、
この作品を恐れるということは登場人物たちのような恐るべき人間が身近に増えているということなのだろうか。
「人間としてどのようなことをしてはいけないか」ということをまったく教育された様子のないキャラクターたち。
それは母原病のようにも見えるが、
登場人物の母親たち自身も恐らくアンタッチャブルを学ばなかった人間たちとして描かれている。
そのこと自体は悪とは言い切れないし、
だからこそ親の世代は決定的な破綻を迎える様子もなく子供を傀儡として育てられたのだと思う。
それでも本作で醜悪だと思うところは、子が完全に親の思考をコピーせざるを得ないという部分だった。
親のコンプレックスを子供に引き継がせ、
より劣化した醜悪な傀儡である我が子の社会的な名声だけを喜び
パペットマスターとして子供を躾けることが出来ず捨てる、あるいは殺す。
思い通りにならない我が子への対応は、その子供自身よりずっと幼稚な母親たちばかり。
子供本人の思考能力などなく、
単にコンプレックスや優越感を満たすためだけの雑な演劇というイメージが強かった。
現実では触れられない深刻な問題をリアルに描き出しているが、作中では誰も気にしない。
その歪みの書き出し方が最も現実に即している気もする。
主人公となった森口自身は恐らくまともな教育を受けまともな思考を保っているものの、
娘の殺人を機にそのアンタッチャブルが理解できない人種を相手にしなければならなくなり
それがより一層報復の残酷さに磨きをかけたのだろうと思う描写もある。
悔い改めない人間に対して怨恨が募る、という逆説的だが矛盾のない怒りもよく理解できる。
といっても今現在の刑法のあり方まで触れないところがミステリジャンルに留まるスタイルであり、
変に社会派小説として変質しなかったことはいい傾向ではないかと思った。
森口は狂ってはいないものの、相手に後悔を起こさせるような方法を選ぶ人物として描かれたのだと思う。
第一章のみで終了した場合を想定するとそれが良く分かる。
残念ながら、第二章以降ではその報復が失敗したことが次の伏線となる。
何故犯人にHIV感染の可能性を知らせたのか?とか
知らせずに教師を続けていけば犯人が苦しむ瞬間が見れたのではないか?とか
第二章以降の存在によって、第一章で一度けりをつけた報復に疑問が上がるところは少し残念に感じた。
最も、「知らせること」「その場を去ること」自体も報復だと思えば解決する程度だけども。
「母原病」(提言された本来の意味とは違うけども)という単語を思い出してから
結局この作品では子供が母の代理として戦わされただけではないかと思うようになった。
ただ自分の子供の問題に首を突っ込む覚悟があった母親が森口だけだったことや、
他の母親が結局善悪の区別も付かない幼稚な人格破綻者であったことが子供にコピーされているという事実が
悲劇をより助長しているように見せかけたのだと思う。
世間的に言ってはいけないのかもしれないが、
作者本人は子供を育てない方が良い大人が存在する問題を充分に認識しているように思える。
そしてその子供の裁き方だけでなく、大人もどう責任を取るべきかという点にはあえて言及しないように読める。
森口自身を狙わずその娘・愛美を標的にした卑怯さがあってこそ、
森口が報復として犯人たちの一番のコンプレックスである「母親」に返そうとしたことはとても意味がある。
山岸涼子のホラー短編「メディア」にも象徴的に描かれていたが、
日本の母親たちは子供を所有物として意識しその存在をデフォルメ化して偏ったイメージに閉じ込めることが多いように思える。
子供は現実に生まれた物理的存在であるのに対して、
母親の知能や精神の歪みが子供の存在を「デフォルメ」というご都合主義による脳内妄想に託してしまい、
子供がそのデフォルメされたキャラクター像を離れようとするときには母親のイメージから乖離した行動を取ることになる。
このことにパニックを起こす母親が多いのはどうしてか、
という問いに対して「子供が親の所有物だから」という概念が原因だと指摘されている。
子供をありのまま見るのではなく、
親の都合の良い部分だけ褒めて成果物と見なす圧迫感はこの「告白」の第三章・第四章あたりでも良く描かれていたと思う。
森口自身が子供の様子をきちんと見ていなかったことも問題点としてよく挙げられているように思える。
ただ森口自身にも落ち度はあったが、
この点を責めるべきと思う大人の思考回路にはついていけないと思った。
発端は森口がシングルマザーで子供の面倒を見れなかったことではなく、
子供さえ標的にすれば森口を痛めつけられると思った頭の悪い子供、
それを育てた親が居たことだ。
そういう意味では本作のタイトル「告白」とは、
罪を洗い流したくて贖罪の気持ちで誰かに打ち明けるというイメージはなく
単に我侭な人間たちが独白することで言い訳や命乞いをして自己満足するイメージがとても強い。
わたし個人は子供が嫌いなので客観的に見れているとは言いがたいかもしれないが、
それでもこのように育った子供よりそう育てた母親のキャラクターのほうにリアリティを感じた。
あまりこの考えを肯定したくもないが、
本作のような事件が頻発する時代はそう遠くないのかもしれない。

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